先日、『(株)ビッグモーター(以下BM)が国土交通省による聴聞を欠席』とのニュースがありました。それによると、会社側は「意見はない」として欠席をした模様。その結果、指定工場の取消という行政処分がされました。

ニュースでは僅か1,2分の内容ですが、リアルに行政手続きを生業としている身としてはサラッと流すレベルの話ではなく、まして自動車関連の業務は主力業務として日々取り組んでいるものですので、今後の展開に注視しています。

ここに書くのは、当該社の事業上の行為等についての適法性または違法性についてではありません。

聴聞とは行政手続法に基づき監督官庁として行う手続き

処分

今回、国交省がビッグモーターに対して『不利益となる行政処分』をするにあたり、『聴聞』の手続きを踏んでいます。これは行政手続法に定められたルールに従って行われたものです。

一般的には聞きなれない、「不利益な行政処分、聴聞」といった文言。行政手続法にどのように定められているか見ていきます。

先ず行政手続法とは、『行政運営の公正の確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護』をすることを、その目的としています。

(目的等)

第一条 この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第四十六条において同じ。)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。

第一条に掲げられている『処分』が今回の国交省の対応のポイントです。

行政手続法には処分についての規定があり、処分とは以下のように定義されています。

(定義)

第二条
 処分 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。

処分という文言は、悪いイメージでとられることも多いですが、法律上の考えでは公による何らかの権力行使のことで、利益を付与する行為または不利益を付与する行為の両方を意味しています。

この件で適用されるのは不利益を与える『不利益処分』と言われるものです。

不利益処分

不利益処分とは、特定の者に直接義務を課したり、権利を制限したりする行為です。

条文をみましょう。

(定義)

第二条
 不利益処分 行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう。ただし、次のいずれかに該当するものを除く。

 事実上の行為及び事実上の行為をするに当たりその範囲、時期等を明らかにするために法令上必要とされている手続としての処分

 申請により求められた許認可等を拒否する処分その他申請に基づき当該申請をした者を名あて人としてされる処分

 名あて人となるべき者の同意の下にすることとされている処分

 許認可等の効力を失わせる処分であって、当該許認可等の基礎となった事実が消滅した旨の届出があったことを理由としてされるもの

BMに対する処分とは不利益処分です。条文に定められている不利益処分適用除外に該当すれば不利益処分には当たらないのですが、どうやら今回は違うようですね。

では不利益処分を掘り下げましょう。

先に不利益処分に関する条文を確認します。

第三章 不利益処分

第一節 通則

(処分の基準)

第十二条 行政庁は、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない。

 行政庁は、処分基準を定めるに当たっては、不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。

(不利益処分をしようとする場合の手続)

第十三条 行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、次の各号の区分に従い、この章の定めるところにより、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。

 次のいずれかに該当するとき 聴聞

 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。

 イに規定するもののほか、名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分をしようとするとき。

 名あて人が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる不利益処分、名あて人の業務に従事する者の解任を命ずる不利益処分又は名あて人の会員である者の除名を命ずる不利益処分をしようとするとき。

 イからハまでに掲げる場合以外の場合であって行政庁が相当と認めるとき。

 前号イからニまでのいずれにも該当しないとき 弁明の機会の付与

 次の各号のいずれかに該当するときは、前項の規定は、適用しない。

 公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため、前項に規定する意見陳述のための手続を執ることができないとき。

 法令上必要とされる資格がなかったこと又は失われるに至ったことが判明した場合に必ずすることとされている不利益処分であって、その資格の不存在又は喪失の事実が裁判所の判決書又は決定書、一定の職に就いたことを証する当該任命権者の書類その他の客観的な資料により直接証明されたものをしようとするとき。

 施設若しくは設備の設置、維持若しくは管理又は物の製造、販売その他の取扱いについて遵守すべき事項が法令において技術的な基準をもって明確にされている場合において、専ら当該基準が充足されていないことを理由として当該基準に従うべきことを命ずる不利益処分であってその不充足の事実が計測、実験その他客観的な認定方法によって確認されたものをしようとするとき。

 納付すべき金銭の額を確定し、一定の額の金銭の納付を命じ、又は金銭の給付決定の取消しその他の金銭の給付を制限する不利益処分をしようとするとき。

 当該不利益処分の性質上、それによって課される義務の内容が著しく軽微なものであるため名あて人となるべき者の意見をあらかじめ聴くことを要しないものとして政令で定める処分をしようとするとき。

長々と引用条文を載せましたが、実はこれ超重要条文です。

行政サイドが不利益処分をおこなう場合、予め処分基準(どのような状態になったら営業停止または許可取消処分等をするか)を定めていることがあります。その基準に該当すると営業停止等の処分が下される可能性があります。ただし、監督官庁しだいでのことですので、余程のことでなければ行政指導止まりになるケースが多いと個人的には思います。

冒頭のとおり、国交省はBMに聴聞をおこなう旨の通知を出しています。

それは法13条にあるように、「許認可を取り消す不利益処分をするには聴聞をしなければ」なりませんので、許可(ここでは指定自動車整備事業)の取消しを念頭に置いていたことは疑いようがないでしょう。

事前に行政指導をしていたかは分かりませんが、BMに対してはかなり厳しい姿勢(見せしめ?)を見せたことは間違いないかと。

聴聞

さて、問題の聴聞です。聴聞については以下のように条文に規定されています。

(聴聞の通知の方式)

第十五条 行政庁は、聴聞を行うに当たっては、聴聞を行うべき期日までに相当な期間をおいて、不利益処分の名あて人となるべき者に対し、次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。

 予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項

 不利益処分の原因となる事実

 聴聞の期日及び場所

 聴聞に関する事務を所掌する組織の名称及び所在地

 前項の書面においては、次に掲げる事項を教示しなければならない。

 聴聞の期日に出頭して意見を述べ、及び証拠書類又は証拠物(以下「証拠書類等」という。)を提出し、又は聴聞の期日への出頭に代えて陳述書及び証拠書類等を提出することができること。

 聴聞が終結する時までの間、当該不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求めることができること。

 行政庁は、不利益処分の名あて人となるべき者の所在が判明しない場合においては、第一項の規定による通知を、その者の氏名、同項第三号及び第四号に掲げる事項並びに当該行政庁が同項各号に掲げる事項を記載した書面をいつでもその者に交付する旨を当該行政庁の事務所の掲示場に掲示することによって行うことができる。この場合においては、掲示を始めた日から二週間を経過したときに、当該通知がその者に到達したものとみなす。

(代理人)

第十六条 前条第一項の通知を受けた者(同条第三項後段の規定により当該通知が到達したものとみなされる者を含む。以下「当事者」という。)は、代理人を選任することができる。

 代理人は、各自、当事者のために、聴聞に関する一切の行為をすることができる。

 代理人の資格は、書面で証明しなければならない。

 代理人がその資格を失ったときは、当該代理人を選任した当事者は、書面でその旨を行政庁に届け出なければならない。

これは規定されている聴聞についての一部です。(全部引用するとかなり長くなってしまうので。。。)

聴聞は、監督官庁が何らかの不利益処分を検討しているが、そのまえに当事者の意見を聞いて釈明する機会を与える事を目的としています。

不利益処分をするといっても、一方的に強権的におこなったのでは反発もありますし、また行政運営の公正の確保、透明性が当事者に疑われるかもしれません。結果、訴訟になるケースも十分考えられます。

そのため、処分が恣意的にならないよう事前に当事者の言い分に耳を貸すことが重要になってきます。

しかし、今回のBMの対応は聴聞欠席です。つまり、申し開きをするチャンスを自分からフイにしたわけです。

聴聞は、当事者が参加しなくても代理人を立てて参加することはできます。
BMほどの大企業であれば顧問弁護士等いるでしょうから、弁護士を代理人にすることも十分可能だったと思いますが、何しろ全国34工場に対する聴聞、おそらく全国の地方運輸局で聴聞がおこなわれるので、それだけの代理人を確保するのも大変ですから難しいところですね。

ちなみに行政書士も聴聞代理権がありますので、関与していた行政書士に依頼することも一考だったとのかなと。

なぜ聴聞を欠席したか

上述したように聴聞は監督官庁が不利益処分を検討しているときにおこなわれます。特に、許認可等を取消す処分をするときは、例外を除き必ずおこなうこととされている行政手続きです。
つまり、この段階で国交省は指定自動車整備事業許可を取消すことを検討していたわけです。

まさかBM側がこのことを知らない訳はなく、おそらくは不祥事が多すぎて指定自動車整備事業の継続を諦めているのではないかとも推測できます。指定許可を取消されても自動車特定整備事業としては継続できますので、事業規模を縮小させながらもしばらくは禊をする形を選んではないかと考えられますね。

まとめ

10月24日、BMから行政処分を受けたことが公開されました。

【処分内容】
指定自動車整備事業:12事業場での取消、11事業場での停止
自動車特定整備事業:33事業場での停止

ビッグモーターHP https://www.bigmotor.co.jp/lib/news/news_list.php?id=702

それに加え、10月23日の日経新聞では損害保険会社7社との代理店契約が解約と報道されています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB236Z50T21C23A0000000/

損害保険代理店としての手数料収入はかなりのものであったと噂されていますので、この契約が解約されたことにより売上げの減少は避けられないでしょうね。それ以前に、販売台数の激減は容易に予想されますが。。

事業売却等いろいろ噂話がでておりますが、これだけの規模の会社ですので、業界に与えるインパクトは巨大です。

これをきっかけに中古車市場が縮小することのないように新たな制度設計が必要なときと思います。